ヴァーチャル・リアリティ
そこまで考えて喉の奥からヒュッと息が漏れて出た。


そんなことあってはならない。


これはすべて映像で、現実世界で起こっていることではないのだから。


あたしがアユを傷つけたなんて、そんな……。


あたしの手は自分のゴーグルを触れていた。


今、現実世界がどうなっているのか確認したかった。


すぐにこのゴーグルを外し、2人の安否を確認したかった。


しかし、力を込めた瞬間こめかみにヒドイ痛みが走り、あたしはその場にうずくまってしまっていた。


痛みはこめかみから血流にのって全身へと行き渡り、体中をむしばむようだった。


なにがなんでも、このゴーグルを外させないようになっているらしい。


しばらく痛みに耐えた後、あたしはヨロヨロと立ち上がった。


ゴーグルを外す事ができないのなら、どうしても全部屋脱出するしかないようだ。


あたしは下唇を噛みしめて、キッチン内を睨み付けるようにして見回したのだった。
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