家族でも、幼なじみでもなくて。
「……太一?」

「おい! なんであんなこと言ったんだよ!?」


なんだよ。

『やめる』って。


「太一には関係ないじゃん」

「さっきの話と違うだろ?」

「だから本気で告白したじゃん! でも…それでも、優衣ちゃんには伝わらなかった」

「それは違う」

「どういうこと?」

「優衣には伝わってると思う」

「太一になにがわかるの!?」


俺にはわかるよ。

優衣の気持ちも、陸矢の気持ちも。

痛いくらいに。


「……2人が苦しんでる時、1番近くにいたから。俺にはわかるんだよ」

「なんだよ、それ……」


陸矢は自分の服の裾を強く握りしめた。


「僕にはもう、時間がないんだ」

「陸矢は本当にこれでいいの?」

「うん。優衣ちゃんだって僕を突き放したんだよ? だから、僕も優衣ちゃんを突き放したっていいよね?」

「根にもってる?」

「別に。過去のことだし」


また怒ってる。

グーで俺の腕を殴るなよ。

完全に根にもってるじゃん。


「陸矢、痛い」

「あ、ごめん……」

「やっぱり、優衣に全部話し…」

「話せるわけない! 大学を卒業したら結婚しないといけない相手がいた、だなんて……そんなこと…優衣に言えるわけないだろ!?」

「それって…」


つまり、許嫁ってこと?

陸矢の親父さんが社長だってことは知ってたけど……まさか、陸矢に許嫁がいたなんて。


「あ……ゆ、優衣ちゃんには言わないで」

「でも、優衣が教えてって言ったら?」

「その時は、太一に任せるよ……僕もいずれ、父さんの跡を継がなくちゃいけないってわかっていたはずなのに…」


陸矢は大きなため息をついた。
< 44 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop