晴れ曜日
夜の道すがら、煙草に火をつける。
一種の護身だ。
女は面倒。暗い夜道、わたしは気が滅入るほど緊迫している。
昔からよく言うけど、出るかいるかもよく分からない幽霊や妖怪ではなく、一番怖いのは人間だ。この場合男と言うべきかもしれない。
統計がどうなっているかは知らない。けれど、煙草を吸ってとげとげした雰囲気をかもしだしている女と、無防備で緊張感なく、てくてく歩いている女とじゃ襲われる確立はかなり違うんじゃないかと思う。
他にすることはケータイを開いて歩くこと。
別にこの世界に私しか女がいないわけじゃないんだ。それならもっと油断した女を狙うはずだ。
5年前、一度だけ夜道、痴漢に遭ったことがある。
家のすぐ近くで、気が緩んでいた。不幸中の幸いか、胸を触られただけで、私が叫ぶと犯人は逃げていった。逆光で顔が見えなかったが、細身の少年だったような気がする。追いかけて後ろから蹴りを入れてやろうかとも思ったが、やめた。もし仲間がいたらと思うとさすがに恐ろしかったし、相手は未成年かもしれないという情けもあった。黙って家に入り、両親にことの事情を説明し、話し合った結果、警察への通報はやめた。
地元では変質者に対するケーカイがしかれていたし、意味はないと察したからだ。
ただ、あのときから私は用心深くなった。自分の身は自分で守るのだ。
もうすぐアパートに着く。気を緩めず歩こう。