7・2 の憂鬱
戸倉さんから言われる ”可愛い” には、破壊力があるのだ。
そう言われたら、もれなくわたしの思考は緩慢になってしまうのだから。
わたしは「そ・・・っ」と言葉をつまらせた。
にもかかわらず、戸倉さんは手をゆるめることなく、わたしを甘く責めてくる。
《帰ったら、覚悟してくれる?一晩中寝かせてあげられないから》
「なっ、」
何のことを言ってるのかなんて、分かりきっていて、わたしは更に言葉を見失ってしまう。
熱量の高まった夜が、また訪れると予感したせいで。
すると戸倉さんはハハハと、声に出して笑った。
まるで、見えないはずなのに、わたしの表情の細部までを覗かれているような気分だ。
《白河、好きだよ》
前触れもなく想いを告げる、戸倉さんの癖。
そのたびに、わたしは胸が騒がしくなって、ドキドキして、戸倉さんのことをこんなにも好きなんだと再自覚する。
まだ短い恋人時間の中でも、そうやって、少しずつ、ひとつずつ彼を知っていくのが、わたしはたまらなく嬉しかった。
そしてそんな戸倉さんから影響を受けないわけはないのだ。
”頑張りすぎないで” と言った戸倉さん。
その真意も、心配性な戸倉さんが、わたしが一人で頑張ることを気にかけるのも、じゅうぶん理解できるのだけれど、それでも、わたしは頑張りたいと思ったから。
「わたしも、好きです」
はっきり告げると、耳元には戸倉さんの喜ぶ声が返された。
そしてその声に引っ張られるように、わたしは、心を決めた。