7・2 の憂鬱
「・・・戸倉さん」
《ん?》
「わたし、戸倉さんが好きです。だから、頑張らせてください。戸倉さんがそばにいても、いなくても」
一人きりの夜にだって、彼を想えば頑張れた。頑張りたいと思ったから。
それは決して、戸倉さんのためだけではなく、むしろ自分に自信を持たせるために。
わたしはわたし―――――――――
その言葉に慰められたけれど、はじめて ”大好きな恋人” を得たわたしは、もう、以前のわたしと違うのだ。
しばらくして、
《そうか・・・》
遠くパリから、優しい相槌が届いた。
《じゃあ、今度会ったら、僕は白河をめちゃくちゃに甘えさせることにするよ》
有無を言わせない温度でそんなことを宣言した戸倉さんに、わたしの方こそ、煽られてしまう。
「な、なに言ってるんですか。だいたい、戸倉さんはわたしに甘過ぎますよ」
変に焦りながら反論しても、戸倉さんには響いてくれず。
逆に、《白河こそなにを言ってるんだ》と言い返された。
《恋人を甘やかすのは当たり前だろう?白河を甘やかすのは僕の特権。言っておくけど、僕が本気だしたらこんなものじゃないからね。覚えておいてくれる?》
言いながら、戸倉さんは声の張りを崩して、さらりと色香を纏ってみせた。
それはまるで、ベッドの中で抱きしめながらささやかれているようで・・・・
わたしは、胸を絞り上げられたように深部が震えた。
「も、いいですから!それより、移動の途中なんですよね?お邪魔になるので、わたしはこれで失礼します!」
早口でそう告げると、戸倉さんは楽しげな笑い声を隠さなかった。
きっと彼には、今のわたしの真っ赤っかな顔が手に取るように分かるのだろう。
《全然邪魔なんかじゃないけど、白河も飲み会で疲れただろうし、もう切るよ》
笑いながら言われて、わたしはちょっとだけ悔しい気持ちにもなった。
けれど、
《それじゃ、おやすみ。愛してるよ》
最後に添えられた言葉には、完全降伏するしかなかった。