7・2 の憂鬱



「大丈夫。そんなの、白河だけじゃないよ。大勢でいるのが好きな人間もいれば、群れるのを好まない人もいるさ。どちらが良いわけでもない。周りに迷惑かけないのなら、一人でいても、付き合いが悪くても、全然問題ない。白河は、仕事終わりの飲み会は行かなくても、人当たりがいいから社内でのコミュニケーションに困ることはないだろう?取引先との関係も良好だ。たとえ飲み会の出席率が100パーセントでもコミュニケーションに問題がある奴らに比べたら、ずっといいよ」


大丈夫―――――――そう言われて、わたしの中の一部分が、少し、揺らいだ気がした。


戸倉さんはわたしの頭から手を離すと、足を組んで、その上に頬杖ついた。


そして、

「でも・・・まさか白川がそんな風に考えてたなんてな。かわいいなぁ・・・・」

感情たっぷりに言って、目を細めたのだ。


「かわいい・・・・って、そんなわけないじゃないですか。なに言ってるんですか」

すぐ近くから笑いかけられたわたしは、プイッと横向く。


戸倉さんから、正面きって ”かわいい” だなんて言われたことなかったからだ。

照れ隠しバレバレな反応。

けれど、そもそも、戸倉さんは女性社員との会話の中に、あまりそういう誉め言葉は使わない。

”よく似合ってるね”
”夏らしくていいと思うよ”
”前のよりも明るくなったんじゃない?”

ボキャブラリーの少ない人間なら ”かわいい” ですませてしまう場面でも、戸倉さんは、安易に乱用したりしない。
そういうところも、彼の誠実な印象を、より確かなものにしているのだ。


その戸倉さんさんに、はじめて ”かわいい” なんて言われて、赤面するなというのが無理だと思う。


「あれ、耳が赤くなってない?」

戸倉さんはからかい口調で言ってくる。
もう、声が笑っていた。

「・・・っ!」

わたしは咄嗟に両耳を手で押さえて、戸倉さんから隠した。









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