7・2 の憂鬱
戸倉さんはいつもと変わらず、穏やかに笑っていて。
まるでじゃれつくような松本さんにも、慣れたように応対している。
そして松本さんの手は戸倉さんの腕を掴み、軽く引っ張りながら揺らす。
そのとき、戸倉さんと、目が合った。
距離はあったけれど、確かに戸倉さんの視線がわたしをとらえたはずだ。
・・・なのに、戸倉さんはフイッと逸らしたのだ。
そして、そのまま、松本さんに何かを語りかけた戸倉さん。
ひょっとして今・・・・無視、された?
外された視線に、違和感しかなかった。
用がなければ、目が合っても逸らすなんて普通のことだけど、今まで、戸倉さんからそうされたことは一度もなかったのだ。
最近は顔を合わすこと自体が減っていたけれど、ペットボトルを落としたわたしに雑巾を差し出してくれた戸倉さんは、いつもと変わらない戸倉さんだったのに・・・・
廊下の向こう側では、二人が何やら笑いあっていて、
なのに、わたしは、戸倉さんにお礼すら伝えることができない。
キュッと、みぞおちの辺りが痛くなった気がした。
わたしは、くるりと踵を返し、自分の荷物を取りに戻った。
もう、あの二人を見ていたくなかったから。
はっきりと目を逸らされて、わたしは、それが戸倉さんからの拒絶のように感じてしまったから。
そんなわけ、ないはずなのに。
あの優しい戸倉さんがわたしを拒絶するなんて、そんなことないはずなのに・・・・
だけど、仕事以外で会うのは控えようと言い出したのはわたしの方だ。
みぞおちの痛みは鋭くなり、ムカムカとしてくる。
わたしは荷物を手にすると、急ぎ足で部署を後にした。