7・2 の憂鬱




ちょうど停まっていたエレベーターに駆け込んだとき、振り向いた先には、戸倉さんと松本さんが、二人並んでエレベーターホールに歩いてくる姿があった。

とっさに、わたしは閉ボタンを押した。


スーッと、扉は閉じられたけれど、わたしは、みぞおちの痛みがよりいっそう大きくなっていく気がしていた。


違和感が不快感へと変わって、気持ち悪くなる。

ここが社内じゃなかったら、お腹を抱えて座り込んでいたかもしれない。

一人きりのエレベーターで、わたしの中では、締め付けられるような、ヒリヒリするような、なんとも言い様のない苦痛が膨れ上がってきた。

苦しい。

まるで息の仕方も忘れさせるような、唐突で、乱暴な、激しい痛み。


こんな痛みは今まで経験なくて、一瞬、おかしな病気なんじゃないかと考えたけれど、

エントランスフロアに着いたエレベーターが再び扉を開いたときには、もう、その痛みの正体を自覚してしまっていたのだった。



―――――――――それは、嫉妬。



わたしは、戸倉さんと松本さんが楽しそうに話しているのを見て、嫉妬したのだ。


自分から距離をおいたくせに、戸倉さんが他の人と親しくしているのに嫉妬するだなんて、自分でも呆れてものが言えないけれど。


けれど、それが正直な気持ちなのだ・・・・


わたしは、速足でオフィスビルを飛び出すと、まっすぐ駅に向かった。


戸倉さんと松本さん、二人の姿に嫉妬した――――――――

彼らのどちらに嫉妬の感情を向けたのかといえば、答えは明らかで。













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