7・2 の憂鬱
わたしはそれを拒否することもできず、少しの間、戸倉さんと見つめあって、そして、コクン、と頷いた。
すると戸倉さんはホッとしたように目を細めたのだった。
「よかった。じゃあ、また何かあったり聞きたいことがあったら、すぐに言ってくれるね?もうあんな風に避けられるのはごめんだからね」
諭すように言った戸倉さんは、また、わたしの頭をトン、と叩いた。
そのとき、思わず、体がビクリ、と反射してしまった。
――――――戸倉さんのヨーロッパ行きを、思い出したのだ。
「・・・どうした?」
「いえ・・・あの、」
「うん?」
何かを言いかけたわたしに、戸倉さんは優しく促すような態度で、そっと手を離した。
「白河、何かあるなら言って。小さなことでも構わないから」
また少し心配そうに眉を動かす戸倉さん。
わたしは、本当は気持ちの準備をしてから訊きたかったけれど、戸倉さん本人に確かめられるチャンスは今しかないと感じた。
「あの、・・・ヨーロッパに行くって、本当ですか?」
尋ねながら、胸がバクバクしていた。
緊張が、高まった瞬間だった。
すると戸倉さんは、わずかに「え?」と唇を動かしたのだ。
「どうして知ってるの?」
その返事を聞いたとたん、”松本さんの情報が間違っていたのかもしれない・・・” という希望的可能性が、ガラガラと崩れていくようだった。