7・2 の憂鬱




わたしは、おずおずと、左上に顔を向けた。
自然と、戸倉さんと見つめあう。

「僕のことを悪く言われていたから、それが自分のせいだと思ったの?自分がそばにいたら僕の評判が悪くなるとでも思ったの?それで僕と一緒にいない方がいいと思ったの?」

そう尋ねる戸倉さんには、驚いたような表情が見られた。

さっきの説明でそこまで把握できるのは、やっぱり戸倉さんがわたしのことをお見通しだからで。
わたしが戸倉さんに ”特別” を感じたのは、きっと、そんなところなのだ。


「・・・・実際、その通りだと思いますから。わたしと親しくしていると、戸倉さんの評判が悪くなってしまうから・・・」

小さく答えたわたしに、戸倉さんはハッ・・と乾いたため息を短く吐いた。

そして

「みくびらないでくれるかな」

突き刺すように、言った。


「僕は噂話ひとつでどうにかなるような、そんな信頼の持たれない人間ではないと自負してるよ。それに、万が一そうなったとしても、僕は自分の評価くらい自分でどうにかするよ」

そう断言した戸倉さんは、見たことがないくらい、男らしかった。

凛とした瞳に意思の強さを感じるのははじめてではないけれど、それが、今、わたしにだけ向けられていることに、とても、気持ちが昂りそうだった。


「それとも、年下の女の子に守ってもらわなくちゃいけないほど、僕は頼りない男に見えるんだ?」

白河にはそう見えてるの?

そう訊かれて、わたしは上手い返事が出てこなかった。

「そんなことは・・・」

「だったら、自分のせいで僕の評判が悪くなるとか、そんな無意味なこともう思わないでくれるかな」

矢継ぎ早に問う戸倉さんに、わたしは、また視線を逃がしたくなってしまう。

けれど

「思わないよね?」

まるで、”逃げるな” とでも言うように、重ねて尋ねられた。









< 63 / 143 >

この作品をシェア

pagetop