7・2 の憂鬱
わたしは、おずおずと、左上に顔を向けた。
自然と、戸倉さんと見つめあう。
「僕のことを悪く言われていたから、それが自分のせいだと思ったの?自分がそばにいたら僕の評判が悪くなるとでも思ったの?それで僕と一緒にいない方がいいと思ったの?」
そう尋ねる戸倉さんには、驚いたような表情が見られた。
さっきの説明でそこまで把握できるのは、やっぱり戸倉さんがわたしのことをお見通しだからで。
わたしが戸倉さんに ”特別” を感じたのは、きっと、そんなところなのだ。
「・・・・実際、その通りだと思いますから。わたしと親しくしていると、戸倉さんの評判が悪くなってしまうから・・・」
小さく答えたわたしに、戸倉さんはハッ・・と乾いたため息を短く吐いた。
そして
「みくびらないでくれるかな」
突き刺すように、言った。
「僕は噂話ひとつでどうにかなるような、そんな信頼の持たれない人間ではないと自負してるよ。それに、万が一そうなったとしても、僕は自分の評価くらい自分でどうにかするよ」
そう断言した戸倉さんは、見たことがないくらい、男らしかった。
凛とした瞳に意思の強さを感じるのははじめてではないけれど、それが、今、わたしにだけ向けられていることに、とても、気持ちが昂りそうだった。
「それとも、年下の女の子に守ってもらわなくちゃいけないほど、僕は頼りない男に見えるんだ?」
白河にはそう見えてるの?
そう訊かれて、わたしは上手い返事が出てこなかった。
「そんなことは・・・」
「だったら、自分のせいで僕の評判が悪くなるとか、そんな無意味なこともう思わないでくれるかな」
矢継ぎ早に問う戸倉さんに、わたしは、また視線を逃がしたくなってしまう。
けれど
「思わないよね?」
まるで、”逃げるな” とでも言うように、重ねて尋ねられた。