7・2 の憂鬱




「・・・・ここじゃ、嫌、です」

かすれた声は、自分の声じゃないみたいで、ドキリとしてしまう。

唇を離しても右手でわたしの耳や頬を触っていた戸倉さんは、フゥ・・と息をこぼした。

「ごめん、もう限界がきてるかも」

セリフとキスが一度に落ちてきて、わたしは心から火照ってしまった。

けれど名残おしそうにキスを止めた戸倉さんは、わたしの手を引いて部屋の中に進んだ。
あわただしく靴を脱いで、彼についていく。
戸倉さんは一番手前の扉を開くと、手早くエアコンのスイッチを入れ、二人きりの部屋に低い音が響き出した。

そしてそこでまた、キスをくれた。

今度は、額と、頬に。

「好きだよ。ずっとこうしたかった」

まるでそう告げられること自体が嬉しいような、戸倉さんは満ち足りた眼差しをしていて、わたしまで嬉しくなる。

二人して自然とベッドに歩み寄り、やわらかく押し倒された。

戸倉さんはスーツのジャケットを脱ぎ落とし、ネクタイの結び目に指をかけてゆるめると、両肘をわたしの顔の横に置いて、そっと、近付けてくる。

「好きだ――――――」

囁き声が首筋に沈んだとき、

わたしは、戸倉さんの続きを手伝うかのように、ゆるんだネクタイの結び目をほどいていったのだった・・・・・










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