7・2 の憂鬱




どれくらい時間が経ったのだろう。乱れていた息が規則正しさを取り戻し、わたしの頭の下に差し込まれた腕に頼りきっていた頃、ふわりと、前髪をすかれた。

「平気?白河」

やや心配そうな訊き方に、わたしは顔を動かして彼の瞳を見つめた。

「大丈夫、です」

「あんまり余裕なかったから、無理させたんじゃないかと思って・・・」

彼の指先は、どこまでも優しい。

今こうやってわたしの髪を撫でるのも、さっき体じゅうを辿っているときも。

だからわたしは、彼を安心させるために、

「大丈夫です。無理なんかしてませんよ?」

彼の頬に、そっと触れた。

すると、戸倉さんはこの上なく幸せそうに目を細めた。


あんなに触れたい、触れられたいと思っていたぬくもりが、こんなにすぐ近くにあることに、わたしの方こそ幸せでたまらなくなる。

「どうしてそんな可愛いこと言うかな」

「え?」

「今日はもう終わりにしようと思ってたのに・・・」

終わってあげられなくなるよ?

戸倉さんは、頬にあったわたしの手を握ると、指先にキスをした。

「それは・・・」

うっかり、燻っていた熾火(おきび)が刺激されそうになって、わたしはパッと顔を逸らした。

そんなわたしの反応に、戸倉さんはクスッと笑う。

「大丈夫だよ。今日はもうしないから。いきなり無理させて白河に嫌われたくない」

「そんな、嫌うだなんて、・・・ありませんよ」

戸倉さんは握っていた手に指をからませると、

「こら、そんなに煽るんじゃないの。僕の理性を試してるね?」

いたずらっぽく言った。

そんなつもりなどなかったわたしは慌てたけれど、戸倉さんはわたしの頭から腕を抜くと肘をついて、じっと見つめてくる。

わたしは横向いていたけれど、それでも視線は痛いほど感じて、急に恥ずかしくなってきた。









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