極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
王弟アルフレートの領地サンレームは、バルデス王国王都の西にある。

田舎ののんびりとした村で、住む人々も穏やかな気質が多い。冬の寒さが厳しい事を除けば、住みやすい所だ。


小高い丘に建つ館から、シェールはこっそりと抜け出した。

アフルレートが防犯に無関心な領主なのか、土地柄かは分からないけれど、館の警備は結構緩い。

輿入れ前の僅かな期間を過ごしたユジェナ侯爵家の館とは大違いで、身軽なシェールなら、秘密に出入りするなんて簡単だった。


「王族の館がこんな風でいいのかしら」

のどかな道を軽快に歩きながら、シェールは小さくなって行く館を振り返る。

木々に囲まれた青い屋根の館は、今日も静か。
至って平和だ。

「まあ、この村に泥棒なんていないからね」

ひとりで納得してくすりと笑うと、シェールは待ちきれないように、野花咲く道を駆け出した。




「あら、今日は随分早いんだね。ちょうど良かったよ」

シェールに気付くと、村唯一の薬師ノーラは仕事の手を止めて立ち上がる。
庭の端にある小屋に行くと、大きな桶を取り出し当たり前のようにシェールに渡して来た。

「えー、今日は洗濯なの? 早く来なければ良かった」

包帯や当て布の洗濯は、面倒な上に薬草の勉強にならない。
不満を零したけれど、ノーラは気に止める気配もなかった。

「洗濯だって薬師の仕事の一部だよ。何でもするから薬師の仕事を教えてくれと言って来たのはお前だろ?」

「分かってるけど、手が荒れちゃうし……」

「そんなの気にする性格でも身分でもないだろ。早くしないと今日中に終わらないよ!」

「はーい」

ノーラに急かされ、シェールは渋々と桶に大量の洗濯物を入れる。
ずっしりと重くなったそれを持ち上げると、水場に向かった。
< 4 / 102 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop