極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
マグダレーナはシェールの反対に耳を貸さず、館を出て村に通うようになった。

ただカレルは、見回りの人々の詰所にもノーラの診療小屋にも居ないらしく、なかなか会うことが出来ないそうだ。

おかげでマグダレーナの苛立ちは募り、その怒りの矛先は当然のようにシェールに向いて来た。


「どう言う事なのよ! 私が会いに行ってるのに出てこないなんて、信じられないわ! 村の人間もカレルの行き先を知らないと言うし、どうなってるのよ!」

「詰所の人達も知らないと言っているのですか?」

「そうよ! それどころかそんな人は働いていないって! 薬師も知らないって言うしどう言う事なの⁈」


癇癪を起こし食ってかかって来るマグダレーナを宥めながら、シェールはカレルの事を考えていた。


(誰も知らないだなんてどう言う事なの? カレルはあそこで働いていたんじゃないの?)


小さな村だしカレルの容貌なら、うっかり忘れられるわけがない。一体どういう事なのだろう。

(……考えてみたら私、カレルの事を何も知らないのだわ)

会う時はだいたいノーラの診療小屋の近く。
森の管理の仕事をしているとは聞いていたけれど、実際働いている所を見たことが無かった。

けれど、薬草を取りに行く時付き添ってくれる彼は、とても森に慣れていたから何の疑いも持たなかったのだ。

カレルはシェールに対してちよっと意地悪な時も有るけれどそれ以上に優しくて、彼の人間性に不安を覚えた事など無かった。


それに、私的な事を敢えて聞こうとしなかった。


(もし、お前はどうなんだ?って聞き返されたら、私は何も答えられないないのだもの)


楽しい瞬間を大切にするあまり、肝心なところから目を逸らしていたのだ。

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