極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
カレルは今、どうしているのだろう。

無事に過ごしているのだろうか。

心配で今すぐ探しに行きたいくらいだったけれど、マグダレーナがいる為、無闇に動けない。

マグダレーナは、未だユジェナの屋敷に戻る気は無いようだった。


時間だけがいたずらに過ぎて行く。


シェールは身動き取れずに悶々と悩んでいたけれど、あるとき、遂に忍耐の限界を迎え、座っていたソファーから勢いよく立ち上がった。


「もう待ってられない!」

約束の千日目まて、あと十七日。

問題は起こしたくないとひたすら周りが動くのを待っていたけれど、苛立ちが溜まるだけで、何も変わらない。


「ユジェナ侯爵も、侯爵夫人も何やってんのよ! 愛娘が家出してるって言うのに!……何もしていなかったのは私も同じだけど」


失敗を恐れて時間だけを無駄にしてしまった。
なぜ、悶々と過ごしてしまったのだろう。


「両方上手くやるようにって、考えるのが正解だったのに!」


後悔しながら、シェールは秘密の箱を取り出した。鍵を使って蓋を開ける。

全く減ることのない紙幣と、開ける度に増える手紙の束を掻き分け、新品の封筒と便箋を取り出した。


王弟妃になってからシェールが自ら購入した数少ない物のひとつ。

柔らかな色味の便箋に、部屋に用意されていた筆を使い、文をしたためはじめた。


「ええと……ユジェナ侯爵様へ……と。出だしは大変ご無沙汰しておりますでいいわよね。続きは……」

シェールは眉間にシワを寄せながらゆっくりと筆を走らせる。

平民にしては珍しく、育ての親に読み書きは習っていたので、手紙を書く事に問題は無いけれど、相手が侯爵となると色々と気を遣わなくてはならないから手間がかかる。

マグダレーナを引き取りに来て欲しいけれど、今は怒らせてはいけない相手なのだから。


あれこれ考えながら手紙を完成させたシェールは、間をおかず家令を呼び出した。


「この手紙をユジェナ侯爵へ送って」

「え? 手紙、ですか?」

家令に、シェールが手紙を出す事を依頼するのは初めてだ。

驚きの表情の家令に、シェールは無表情に頷き命じた。


「義姉には知られないように、必ず王弟妃の名で出して」

シェールが個人的に出した手紙だと、後回しににされて下手したらそのまま読まれない可能性がある。
けれど、王家の印を付けた王弟妃の手紙ならば、ユジェナ侯爵と言えど無碍には出来ない。
確実に読んでくれるはずだ。


家令は、戸惑いながらも何か意見する事はなく、手紙を受け取りシェールの部屋を出て行った。

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