さようなら、ディスタンス。
☆
コンビニでプリンを買い、自分の家へと向かった。
夜の国道4号線は、昼間よりも車のスピードが増す。
斜め前から次々とヘッドライトに殴られるような感覚。
歩道にいるのに、まぶしくて目がくらんだ。
自分の曲を口ずさみながら歩く。さびれた歩道橋が近づいてくる。
その100メートルくらい先に横断歩道があるため、あえて上らなくてもいい。
なのに、なぜか自然と足が向かっていた。
階段の足元は真っ暗だ。
踏み外さないよう一段、一段、丁寧に足を乗せた。
さすがにこの場所に来ると思い出してしまう。
『わたしが好きなのは光くんだよ』
『おれも未織だけが大好きだよ』
大好きだった未織との日々を。ここで抱きしめてキスした甘い記憶を。
階段を上りきり、歩道橋からの風景を眺めた。
まばらに近づいては足元に吸い込まれる白い光、小さくなっていく赤い光。
チェーン店やスーパーの看板の灯り。その奥にある暗闇。
昔はこの街の4号線沿いを都会だと思っていたけど、改めて見るとスッカスカだった。
僕は気づかないうちに、東京の街に慣れたのかもしれない。
「あれ……?」
歩道橋を半分渡ったあたり。
手すりに肘をかけぼーっとしている人影を見つけた。
背の高さは同じくらい。Tシャツにハーパンというラフな格好で、手にはスーパーの袋を引っ提げている。
ハイビームの鋭い光が足元に吸い込まれたと同時に、彼は視線を変えないまま僕に話しかけてきた。
「こんばんは。地元帰ってたんっすね」