千一夜物語
夜半を過ぎた頃、黎は屋敷を出て上空で懐に入れていた夜叉の仮面をつけると、真っ直ぐ御所へ向かった。


怒りにも似た恋情――

この身を滅ぼそうと燃え上がる炎に焼き尽くされぬよう、気を強く持ちながら御所の広大な庭に下りた。

だが御所の神羅の部屋には灯りはついておらず、神社へ目を向けるとそちらには灯りが燈り、神羅の気配がした。


「…まさか、また武器を作っているのか?」


もう戦いは終わった。

今後は各地で燻ぶる人への不満を持った妖たちを説得しなければならないが、それは今は微々たる問題だ。

問題は――あの神社の中にある。


「神羅」


思いの外名を呼ぶその自分の声に想いが籠もり、咳払いをした黎は扉を開けて中へ入った。

入り口から見えたのは――祭壇の前で正座している神羅の後ろ姿。

だがその姿は――


「…白無垢?」


人の女が男の元へ嫁ぐ時に着るとされている真っ白な着物。

だがつのかくしは被っておらず、黎が入り口で立ち尽くしていると、神羅が肩越しに振り返った。


「黎…来てくれたんですね」


「来るも何もお前の文を待っていた。…なんだその着物は」


「…お主に話があるのです。長い話になります。茶々を入れず聞いてくれるならば…ここへ来て」


神羅の膝には何かが書かれた巻紙があった。


とてつもなく嫌な予感がした。


だが神羅の傍に行きたくて、静かな笑みを湛えている神羅に歩み寄った。

真っ白な白無垢姿はただただ美しく、神羅の前に立った黎は見上げてくるその凛とした美貌を見つめた。


「…話とはなんだ」


「人と妖の友好について、話をしましょう」


私たちと、あなたたちの世界をひとつにするために。
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