千一夜物語
屋敷の庭へ降り立つと、懐かしの面々が揃って出迎えてくれた。


「神羅ちゃん!お帰りなさい!」


まず声をかけてくれたのはやはり澪で、満面の笑みで駆け寄って来ると、腕に抱いた赤子を見て目を輝かせた。


「わあ…っ、主さまにそっくりだねっ」


「澪さん……あの、私…」


澪は少しだけ目を瞬かせて待ったが、神羅がずっと口をぱくぱくさせていて思わずまた笑って桂の頬をむにっと指で突いた。


「大体なんて言いたいか分かってるけど、ここは寒いから中に入ろ?」


「え、ええ…」


まごまごする神羅の背中を優しく押しながら、黎と目配せをして黎の部屋へと神羅を連れて行った。

牙と玉藻の前もこの時はじめて黎の子を見て頬を緩めていたが――このふたりはふたりで、決意を固めていた。


「わたくし、少しお暇を頂こうかしら」


「あ!俺もそう言おうと思ってた!」


「主さまの御子ともご縁を結びたいですからね、わたくしも子を産んで親子共にお仕えさせて頂く所存よ!」


「俺も!そう言おうと思ってた!」


庭でふたりが共感し合っていた頃、神羅は黎と澪に取り囲まれて代わる代わる桂を抱っこしたいとせがまれて戸惑っていた。


「桂ちゃんって言うの?男の子だよねっ?すっごく可愛い!ちっちゃい角でちゅねー!」


つい赤ちゃん言葉になった澪にふたりが吹き出すと、神羅の緊張が若干解れたところで澪は神羅の手をぎゅっと握った。


「神羅ちゃん、お帰り。私の気持ちは黎明さんから聞いたでしょ?」


「ええ…。でも澪さん…私が邪魔ではないの?」


「え?邪魔?」


食い入るように見つめてくる神羅の前で背筋を正した澪は、こほんと咳払いをして見つめた。

本音をぶつける――

共に暮らしてゆくためには本音をぶつけて分かり合うことが必要だと思っていた。
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