オアシス
第一章
午後4時35分。
怒りや悲しみや、虚しさや絶望と言った、ネガティブな感情ばかりの、圧倒的な勢いに押し流されるようにして、必死に走った。
15年の人生には、一度もなかった全速力。

いつもはあまり行かない、大型スーパーに飛び込む。ポケットにはありったけのお金…お年玉の残金、ちょっと貯めた小遣い、親の財布から抜いた三枚のお札…を握りしめ。


普段は絶対に買って貰えないような服と、ヒールの高いロングブーツ、長めのコート。寒いからマフラーも必要か。まあ何れにしてもなるべく安い値段のもの、欲を言えば赤札50%offで、ピチレモとかにでているようなちょっぴりガーリー風なんてのがあれば……なんて、甘いか。
トイレで着替え、ちょっと迷って、脱いだ服はゴミ箱へ捩じ込んだ。力一杯に。

コートのフードを目深にして、駅へ急ぐ。新しい靴の爪先が痛い。肩から下げた荷物が、食い込んでいる。でも、止まれない。
駆け上がったホームには、珍しく上り下りの電車が、同じように扉を開き、私を手招きしていた。


何かに、試されているような気がした。


自殺か?、自立か?。


迷わず、上りだ。
下ったら、私は確実に、山奥の大木に、今身に付けている黒いタイツを結んでしまうだろう。
間違いなく。



荷物は、play boyの文字と横顔のウサギ柄が白抜きされた、黒いミニボストンと、お揃い柄のビニール製トートバッグ、海水浴にも使えるやつだ。
当座の荷物、化粧品、ヘアアイロ、下着、着替え、タオル、バスタオル…。
迷って…涙がこぼれそうなほど迷ったあげく、携帯電話は、自室の机の上へ置いて来た。
学校の退学届けの下へ…。

どこかを目指している訳でも、当てがあるのでもない。ただ、ここには居られなかった。私のことを誰一人知らない別の場所で、私を再生したかった。

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