年下御曹司は初恋の君を離さない

「また揺れるかもしれないから、捕まっていて」
「え……とぉ」

 戸惑っていた私の手を友紀ちゃんは強引に掴むと、私の手を優しく引く。
 そして、私を扉付近の隅に立たせた。

「友紀ちゃん?」

 未だに手を繋がれていて、どうしたらいいのかわからず、彼の名前を呼ぶ。
 すると、彼は爽やかな笑みを頬に浮かべて言った。

「ずっと夢だったんですよね」
「え?」

 ギュッと私の手を握りしめながら、友紀ちゃんは困ったように眉を下げた。
 そして、私を周りの乗客たちから隠すように、守るように身体を近づけてくる。
 再び近づいた距離に、私は呼吸の仕方を忘れてしまう。

「こうして貴女を守りたかった」
「どういう」

 意味? と聞こうとしたが、このシチュエーションで脳裏を過ぎるのは友紀ちゃんとの過去の思い出だ。

 友紀ちゃんと初めて出会ったのは電車の中だった。友紀ちゃんが痴漢に遭っている現場に居合わせた私は、彼を―――その頃はまだ女子高校生だと思っていたが―――助けたのだ。
 友紀ちゃんが再び痴漢に遭わないように、女である私は男性に見えるような格好をして彼を守っていた。

 あの頃、私はずっと友紀ちゃんをこうして守っていたのだが、そのときのことを言っているのだろうか。
 私が友紀ちゃんの気持ちを理解したことがわかったのだろう。彼は嬉しそうに頬を緩ませた。
< 135 / 346 >

この作品をシェア

pagetop