年下御曹司は初恋の君を離さない

 何か言ってくれた方がまだ助かる。そんなことを思いながら、手から伝わる彼の熱を感じた。

 横に立つ友紀ちゃんに見つからないよう、チラリと彼に視線を向ける。
 今までだったら、高校生のときの友紀ちゃんが一瞬ビジョンに映り込み、今の彼と重なったりしていた。

 だが、今はもうあの頃のように女の子だと思っていた友紀ちゃんはいない。
 成人し、大人の色気と責任感を醸し出す一人の男性として映っている。

 私の心が大きく変化しているのだろう。それは……ずっと私が忘れていた、ある感情が呼び戻されているのだと思う。

(友紀ちゃんに……恋しているのかなぁ)

 こんなふうに異性にドキドキすることは、もう二度とないと思っていた。
 だけど、今。私は間違いなく、胸をときめかせている。

 幸せな予感に頬が緩んだ、そのときだった。私の耳に懐かしすぎる声が届いたのだ。
 身体が意図せず硬直してしまう。
 どうして、なんで……? 疑問と戸惑いが私を襲ってきて、その場に崩れ落ちそうなほどだ。

 私の勘違いだ。そうに違いない。
 そう願いつつ顔をゆっくりと上げた先に見えた人は……私を見て目を大きく見開いていたのだった。
  
 
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