年下御曹司は初恋の君を離さない

「離してください、藤司さん」
「離してもいいが、逃げるなよ」
「……そんなこと、藤司さんに命令されたくありません」

 強気でピシャリと言い切ると、藤司さんはもう一度嘆息したあとに「まぁ、そうだよな」と肯定した。
 その後、藤司さんは私の腕をゆっくりと離してくれたので、ホッと胸を撫で下ろす。

 だが、ここで逃げ出したとしても無駄だろうということはわかっている。
 なんといっても自分のボスである友紀ちゃんが、藤司さんが専務をしている『せせらぎ』とビジネスをしたいと望んでいる。

 社長と挨拶ができたということは、このままトントン拍子に関係が深まっていく可能性が高い。
 となれば、私はどうしたって藤司さんと顔を合わせる機会が増えてしまうだろう。

 今逃げたとしても得策ではない。そう判断した私は、あえて小華和堂副社長秘書として彼と対面することにした。

「私たちの上司はすでに隣接されているホテルへと向かっていることでしょう。私たちも早くその後を追わなければならないと思うのですが」

 淡々と今の状況を言ったのだが、藤司さんは眉を下げて笑った。
 その笑みを見て、過去の記憶がよみがえってくる。彼はよく、こんな表情をしていたことを思いだし、なんとも言えない気持ちが込みあげた。

 私の複雑な気持ちを知っているのか、いないのか。藤司さんは壁に背中を預けたあと、私をジッと見つめてくる。
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