年下御曹司は初恋の君を離さない
「あれが、副社長だから」
「は……?」
我が耳を疑った。今、部長は何を言ったのだろうか。
目を丸くして彼を見つめると、楽しそうに口角を上げる。
「副社長だよ」
「……」
「今日から君のボスだ」
じゃ、と軽く手を上げて部長は秘書部オフィスへと消えていった。
私はただその場に立ち尽くし、先ほど部長が言った言葉を何度も呟く。
「副社長……、私のボス……私の……ボス!?」
叫びそうになるのを堪えるため、慌てて自分の手で口を押さえた。
驚きすぎて、頭が真っ白だ。
私は新副社長には会ったことがない。詳しいプロフィールもなぜか伏せられていた。
それなのに、どうして彼は他部署の人間が立ち入ることができない経営戦略部のフロアにいたのだろう。
呆然としている私に、秘書部オフィスから声がかかった。
「久保さん。副社長室へ向かってくださいと連絡が入りました」
「だ、誰から?」
後輩の顔を見ると、戸惑いの色を隠せない様子だ。
それを見ただけで、私は答えを聞かなくてもわかった気がした。
私は、後輩からの答えを待てず、彼女に聞く。
「もしかして、副社長ご本人?」
「そ、その通りです」
ついに対面の時がやってきたようだ。
策士で一筋縄ではいかない男。小華和友紀。
先ほどは、経営戦略部のフロアで流暢なドイツ語で話していた男性。彼は一体、どんな人なのだろうか。
私はグッと手を握りしめたあと、後輩にお礼を言ってから副社長室へと足を向けた。