年下御曹司は初恋の君を離さない



「それにメッセージアプリまで解約して……。連絡が付かなくて本当に困ったのよ。だって、貴方は私のことを男だと勘違いしていたし、それをどうしても訂正したかったのに」
「スミマセン。それも意図的でした」
「え?」
「だって、悔しいじゃないですか」

 そう言って、友紀ちゃんは顔を顰めた。
 その口調も表情もとても悔しそうで、私は目を見開いた。

「俺は一目で女の未来さんに恋をしたのに、貴女は俺のことを男と認識してくれなかった」
「友紀ちゃん」

 そのことについては、申し訳なさが募っていく。
 しょぼんと肩を落とす私に、友紀ちゃんは首を軽く横に振った。

「しょうがないとは思っています。あの頃の俺は背もまだ低かったし、身体も小さかった。その上、俺も未来さん同様中性的な雰囲気がありましたから。女だと認識されることも多かったですし。声変わりもなかなかしなくて、声が低くなったのは留学してからですからね」

 悲しそうに目を伏せたあと、友紀ちゃんは眉を下げる。

「だから、今度未来さんに会うときには見間違えるほど男性らしくなっていたいって思ったんです」
「ご、ごめんね。友紀ちゃん……あ、こんなふうに呼ぶのもダメだよね」

 ごめんね、ともう一度謝ろうとすると、彼は首を横に振った。

「いえ、未来さんにはこれからも〝友紀ちゃん〟と呼んでもらいたいんです」
「え?」
「未来さんに副社長とか、友紀さんなんて呼ばれたら他人行儀に感じるし。それに、未来さんに友紀ちゃんと呼ばれるのが好きなんです」

 出会った頃を思い出しますしね、と目尻に皺を寄せてほほ笑む様は、鼓動が早くなってしまうほどキレイで格好よかった。
 八年前の友紀ちゃんにはそんな感情を抱かなかったので、戸惑ってしまう。

 だけど、うん。それは仕方がないことだ。
 だって、目の前にいる男性は、本当に素敵な男性だからだ。
 
「立派になったね、友紀ちゃん。なんだか、うん……友紀ちゃんって呼んじゃだめな気がするわ」
「どうしてですか?」
「知らない人みたいになっちゃったから。あ、えっと! もちろんいい意味でよ? 本当に格好よくなっているし。ビックリしたわ」

 慌てて取り繕おうとしている私に、友紀ちゃんはズイッと顔を近づけてきた。
 その距離の近さに再び胸の鼓動が高鳴ってしまう。

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