年下御曹司は初恋の君を離さない


 友紀ちゃんとのことを思い出すということが一番の理由だが、別の理由もある。

 男性とは極力距離を置いて必死で仕事に食らいついてきたのに、弱い自分に戻ってしまう気がして怖かった。それが本心なのかもしれない。

 自分の気持ちがイマイチ把握できていないのは、未だにこの状況に戸惑いを感じているからだ。
 思い出の中の友紀ちゃんが私の目の前に現れただけでも驚いて戸惑っているのに、彼はとんでもないことを言い出した。

 これだけ離れていた期間が長かったのに、私のことを好きだと、覚悟してくださいと……そして、キスまでされてしまった。

 きっと、私と再会して懐かしかっただけだろう。思い出の中の私は、彼の脳裏によって美化されてしまったのだと思う。だから……キスをしてきた。
 だが、恐らく時間とともに友紀ちゃんは冷静になってくるだろう。そうしたら、私への気持ちは勘違いだったと気がつくのかもしれない。

 そんな未来はすぐやってきてしまう。だからこそ、これ以上彼に近づいてはいけない。近づかせてはいけない。

 だからこそ、私は友紀ちゃんのことを副社長と呼ぶことに決めた。それは、仕事を離れてもキッチリと守っていくつもりである。


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