混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
19)全員集合
「リリ、説明して、どうしてこの部屋には、外側から鍵がかけられていたのか」

 イライザの手に握られていたのは、部屋に備え付けの椅子の残骸だった。足を持って扉に叩きつけたせいで、背もたれのあたりは取れている。

 イライザもまた、隣の部屋に軟禁されていたのだろう。だが、自分と違って手足は拘束されてはいなかった。

 誰がやったか知らないが、イライザを拘束しないとは、と、アレンはぼやきそうになったが、すでに何もかもが遅かった。

「……ひどい、私、あなたを信用していたのに」

 イライザの瞳から大粒の涙がぽろぽろとこぼれた。

「あなたこそ、私に真実を語ってはくれなかったじゃないか」

 リリが一歩前へずいっと進みでた。なるほど、今、この場で最も胆力があるのは彼女かも知れない。軍人然とした鍛えられた身体に長身、一分の隙も無い立ち居振る舞いに、アレンも、その場にいた男二人も息をのむ。

「あなたが、イライザだったのか、イザベラ」

 リリからしてみれば、腕力はあるかもしれないが、身のこなしにおいて素人同然のイライザを御するなど造作も無いのだろう。

 イライザの手にある凶器は、あくまでも椅子なのだ。扉を破壊する際に裂けた部分の先端が尖ってはいるものの、それで血を見るような行いができるような度胸はイライザには無い。

「お互い様、って事かな、……ゴメン、ドア、壊しちゃった」

 自分の非をすぐに認めるのは、イライザのよい所だ。アレンは思った。

 少々短絡的で、思った事をすぐ実行に移してしまう事は、誇れた事では無いけれど。

 と、椅子によって破壊されたのであろう、無残な扉をちらりと見ながら、そう思った。

「あー、ところで、この拘束、解いてもらえないか、誰でもいいんで」

 アレンが言うと、とててと所在なさそうだったガブリエルがやってきて、手と足の拘束を解いてくれた。
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