混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
「うわー、やっぱりそうなのか、幼馴染みを売ろうとしてたとは……まあ、想定の範囲ではあるけど」

「気づいてたんだ」

「むしろ気づかないと思っていたんだったとしたら、君は脇が甘すぎる」

 すっかり身支度を調えて、アレンが言った。

「じゃあ、どうして同行してくれたの?」

 イライザが尋ねると、上品に微笑んでアレンは言った。そうしていると、イライザなどよりよほど美しい。

「君を一人でこの船に乗せる事を不安に思っていたある人に頼まれたから」

「もしかして、それって……」

 アレンはイライザの問いには答えず、不敵に微笑んで、作り声で言った。

「さ、参りましょう」

 まるで本当の女性のような優美な仕草のアレンに並んで、イライザはキャビンを出た。

「まるで、私一人が聞き分けの無い小娘みたいじゃない」

 という、イライザのつぶやきは、声にはならなかった。

 父か、と、思うと、いっぱしの記者の気持ちでいたイライザは、自分の未熟さを思い知らされたような気持ちになった。

 一歩ずつ進みながら、イライザは、船はもう出港してしまったのだ、後戻りはできないのだという事を噛み締めながら、アレンが言うとおり、父がそこまで見越して、アレンの同行を許してくれた事に心の中で感謝した。

 晩餐のためにホールへ行くと、ガブリエルとマイケルが待っていて、イライザ(の、振りをしたアレン)と、イザベラをエスコートしてくれた。

 イライザ(の、振りをしたアレン)が、会場に姿を表した時の事は、イライザ(本人)にとって少し複雑だった。
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