混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
 ガブリエルにエスコートされるアレンは、美男美女、まさに似合いの一対といった様子で、記者、イザベラ・クリフトンに難癖をつけてきた、少々お行儀の悪い貴婦人達も、一瞬言葉を失っているようだった。

 イライザは、ガブリエルと似合いのアレンを無言で見守る女達に溜飲を下げつつも、やや、複雑なところもあった。

 もし、今、ガブリエルの隣にいるのが自分だったら、かなり見劣りするだろう。

 それこそ、我こそはと思う女達が、獲物を前にした猛獣よろしく、よだれをたらして近づいてくるに違いない。

 美しさは、少々の嫉妬や妬みを時に凌駕するのだという事を、イライザは感ぜずにはいられなかった。

「俺は、あなたに興味があるけどね、イザベラ嬢?」

 周囲の者達と溶けこむように、壁の一部と化していたイライザに声をかけたのはマイケル・ニュートンだった。

「さきほどは、貧相な女性と言われた気がするのですが」

 イライザは、しかし、正直助かったと思っていた。どうやら、自分は、怒った方が肝が座るような気がする、とも。

「それはほら、方便? 俺は、頭の悪い女よりは、頭のいい女性の方が好みなんだよ」

「その言葉、彼女たちの前でもう一度言うことができるのなら信じられますけど……」

 イライザは一呼吸置いてから、マイケルの耳元へ唇を寄せて言った。

「私は、相手によって言い分をころころ変える相手は信用しませんので」

 殿方の耳元で言葉を発する無作法さよりも、場を乱さない気持ちの方が勝ったイライザはマイケルへ手を差し出し、にっこりと笑った。

「失礼、さあ、では、参りましょうか」

 イライザとしては、この程度でうろたえるような男であったら、夕食抜きは堪えるが、退席しようと覚悟をしていた。

 しかし、マイケルはイライザの予想に反して器の小さな男では無かった。

「まったく、女記者なんてのは可愛げがないな」

「ほめことばとして受け取っておきます」
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