混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
「衣食住おまかせは楽だけど、船の中はキャビン以外逃げ場が無くて息が詰まるよ」

「あれ? でも、イザード氏と睦まじくされているようだったけど?」

「やめて、その冗談は笑えない」

 苦笑するアレンではあったが、実際、イライザのふりをしたアレンのおかげで、例の三人娘からのあたりが和らいだのは確かだと、イライザは思っていた。

 女性記者で、さえない風貌のイザベラ・クリフトンであれば、余裕で勝てるとふんでいた三人娘は、お目当てのガブリエルが、美しく、貴族ではないものの、資産家の娘のイライザと並ぶと、少しも見劣りしないばかりか、勝てそうに無いと悟ると、狙いをマイケル・ニュートンに変えて、マイケルの方へ行ってくれたからだ。

 しかし、その、マイケルの方は、巧妙に三人娘を振りきってイザベラの前に現れた。

 神出鬼没、三人娘に見咎められないように現れては消える様子は、次の寄港地である、リューミにいるというニンジャのようだった。

「君の方は?」

 マイケルから粉をかけられている事を指されてているのかと思ったイライザは忌々しそうに言った。

「言うべき事は何も」

「ん? それって、何かあるにはあったけど、とるに足りないって意味? それとも、僕には言えないって意味?」

「前者かな、マイケル・ニュートン」

「ああ、あいつか」

 思い出したようにアレンも言った。

「イザード氏は? 出港日以来何もなし?」

 探るように尋ねるアレンの様子に、イライザは気づきもせずに、

「ああ、そういえば、一人でいる時に声をかけられる事は無いなー、イザード氏と話をする時は、いつもイライザ嬢と一緒でしたわよ?」

 唐突にしなを作って、茶化すようにイライザが答えた。

 じゃあ、本当に遠くから見守ってるだけなのか、と、アレンは、船の中でもガブリエルの様子を思い浮かべていた。
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