混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
「でも……」

 清められた美しい場所でありながら、墓碑も無く、花も手向けられてはいない。リリが墓だと言うのなら、では、誰の墓なのだろう。イライザは思った。

「墓碑銘も許されなかった、でも、ここには私の一族が眠っている、かつてはこの列島を統べた、王の一族が、……私は一族の血をひく者、公にはしていないけれど」

「最後の、女王?」

 髪をなびかせて立つ、リリの姿は、確かに女王然とした迫力を持っていた。

「そんなにいいものではないよ、戦に敗れ、敗走する王の手がついて、産み落とされた者の末裔だから」

 苦笑し、肩をすくめた様子は、先ほどまでのリリだった。

「あなたに、我が一族の記録を託したい、旅行記に記してもらえれば何よりだけど、数日の滞在では難しいだろうから、どんな形でも、……とにかく、私は、私の一族の記録を、きちんとした形で残しておきたいんだよ」

 空は青く、彼方の海は輝いているというのに、リリの語った一族の歴史は、決して明るいものでは無かった。

 文明の衝突、通じない言葉、巧みに『未開の蛮族』として弾圧されて、追われた歴史を。

「ここはお墓だけど、最後の王はここにはいないの」

 そう言ってリリが見た、はるか先、海に突き出た半島の岩山。視線は、そこを超えて、更に遠く、最も大きい島の方を見る。

「偉大な王は、その遺骸を侵略者に見せる事を潔しとしなかった、山中に消え、その後は、誰もわからない……」

「この島に、そんな歴史があったなんて……」

 明るく、美しい島だと思っていた、港の人たちも陽気で、楽しそうに見えていた。

「……もう百年以上前の話だ」

「何故あなたは自分で書かないの? 私より、あなたが書く方がふさわしいと思うのだけど」

 リリは自嘲気味に笑った。
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