混戦クルーズ! 造船王は求婚相手を逃さない
15)失われた王朝の生き残り
 塔を後にして、イライザはリリに連れられて別の場所へ来ていた。こんもりした緑色の丘、簡素ではあるが組まれた石垣。塔のある港よりもさらに山よりの、海を遥かに見下ろす場所は、広々と美しく整えられているものの、どこか寂しげな場所だった。

 イライザは、シンボルツリーのような大きな木を見て、幼い頃登った木を思い出していた。

 イライザのよく知っている木は、今、目の前にある木ほどに立派では無かったけれど、見晴らしのよい丘に伸びやかに枝葉を茂らせる木と、海をのぞむ場所は、どことなしにイライザの郷愁を誘った。

 馬を駆ってきたため、今この場にいるのはイライザとリリの二人だけだった。

「どうですか、この場所は」

 気軽な言葉の中に、リリがイライザの感性を試すような様子を感じて、イライザはゆっくりと、言葉を選ぶようにして答えた。

「とてもきれいな場所だと思うのですが、なぜか、寂しい感じがします、何故かは、わかりませんが……」

 イライザが言うと、強い風が、イライザとリリの間を吹き抜けていった。リリが、軍帽を脱ぎ、結い上げていた髪をほどくと、風に吹かれて、リリの黒く、うねる豊かな髪が、波打つようになびいた。

「寂しい感じ……、そう、ここはお墓だから」

 髪をなびかせるリリの表情がよく見えない。しかし、その声は、昨晩酒場で見た、艶めいて世慣れた女のものでもなく、凛々しい軍人のものでも無く、深い悲しみに震えているような声だった。
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