ドッペル少年少女~生まれる前の物語~
「サク様、サク様!」

「はっ!…………はぁ……はぁ」

自分を呼んだ声に、サクは一気に思考を浮上させて起き上がる。

「……ここは」

「無謀なことをしましたな」

サクを呼んだのはフギルだった。前にも増して白髪が増え顎もたるんでいるが、厳しい光を帯びた瞳は変わっていない。

「フギル………先生」

「全く。こんなものは読むべきではありませんな。すぐ燃やさせましょう」

「!待って!」

本を取り上げたフギルに、サクはすがり付くように声を荒げる。

「それを、持っていかないで」

「……サク様。貴方は前世なんてものよりも、もっと大切なことに興味を示すべきでしょう」

「………分かっています。けど、僕は当主になるための人形じゃない!だから、ほんの少しの楽しみくらい与えてくれたって良いでしょう?」

フギルはただ、ジッとサクの顔を見ていた。

「……いいでしょう」

深々とため息を吐くと、本をサクへと返した。

「その代わり―」

フギルはサクに何かを耳打ちした。

「!……分かってます」

言われた言葉は、サクの心に刺さった。

「では、もうすぐパーティーに行く時間ですのでお支度を」

フギルはそれだけ言うと、図書室を後にする。

「………分かってるよ」

先ほどの言葉がよみがえる。

―サン様を諦めなさい。お二人は兄妹なのですから―

フギルに言われずとも分かっている。サクはそこまで愚かではない。

「……あの記憶」

少しだけ見たあの光景が、瞼を閉じてもちらつく。

(一人でやったら、精神が崩壊してたかも知れないって書いてあった)

けれども、自分は無事だ。

(あれがもし、僕とサンの前世なら・・・・僕達は、結ばれないから双子になったのかな?)

男が言っていた、生まれ変わったら兄妹として出会おうという言葉に、サクは皮肉げに笑った。

(もしそうだったら、無駄だったね)

結局、血の繋がった兄妹であっても、サクはサンを愛した。きっと何度生まれ変わってもそう決まっていた。

(むしろ、出会わないことを望めば良かったのに。皮肉だね)

それでも、出会うことを心のそこで望んでしまうのだろう。

「馬鹿みたいだ」

サクはそう言って立ち上がると図書室を出た。


サクが前世の記憶を見ていた頃、サンはルーナに呼び出されていた。

「どうしたんですか?」

「サン様。お喜びください」

ルーナはどこか嬉しそうに微笑んでいる。

「貴女様にお見合いの話がきています」

「え?」
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