ドッペル少年少女~生まれる前の物語~
「……」

ピアノの前に座ると、サンは落ち着いたようにメロディーを奏でる。

ピアノを弾いている間は、サンの世界からは余計な雑音が消え、とても集中出来たのだ。

「……ピアノは、まぁ……よろしいですね」

ルーナの声はサンには届いておらず、意識をひたすら音へと注いだ。

人によって、心を写す鏡は違う。例えば芸術家なら絵。オペラ歌手なら歌と言ったように、心の内側をさらけ出せるものを誰もが持っている。

そして、サンの心を写す鏡は、ピアノの音色だった。

「………ふぅ」

弾き終えると、ルーナは頷く。

「特に言うことはありません。今日はもう終わりにしましょう」

「はい」

今度は怒られることも、ガッカリされることもなかったので、サンはホッとした。

(ピアノと同じように、他のことも上手く出来なきゃ)

けれども、他のレッスンをする時は、どうしても回りの視線や心のプレッシャーから失敗をする。

上手くやろう、失敗してはいけない。そんな思いで取り組もうとすると、手が震え集中が出来なくなる。

サン自身が、それに気付かないが。

サクと一緒にいた時は、殆ど失敗などしなかった。いつも笑って手を引いてくれたサクがいたからこそ、サンは何でも出来る気がした。

(サクが一緒なら…………いいえ)

サンはサクの顔を思い浮かべて、すぐに首を横に振った。

(駄目よ。サクに頼ってばかりじゃ)

両親に兄離れをしろと釘をさされたことを思い出す。

(私は、サクがいなくても大丈夫)

本当は不安で仕方がなかった。けれども、それを押し隠すように廊下を進んでいった。

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