ドッペル少年少女~生まれる前の物語~
皮肉
「サクー?」

十八歳になったサンは自分の兄を探していた。

金色の髪を腰まで伸ばし、耳の上から横に編み込まれた髪を赤いリボンで結んでいる。

少女から女性へと成長したサンは、とても美しかった。

「サク?何処にいるの?」

図書室の扉を開け、キョロキョロと辺りを見回すと、上へと続く階段に座りながらサクは本を読んでいた。

サンと同じく前よりも髪が伸び、赤いリボンで結んでいる。けれども手や身長はサンよりも大きい。少年から青年へとサクも成長していた。

「もー、サクったら」

「……あれ?」

サンが頬を膨らますと、ようやく気付いたサクが顔を上げる。

「やぁ。いらっしゃい」

「いらっしゃいじゃなくて、貴方今日パーティーに行くんでしょう?」

困ったようなサンの声に、サクは人差し指を顎に当てる。

「まぁね。でもまだ時間があるから」

「それはそうだけど。最近サク、時間にルーズなんだもの。心配だわ」

「大丈夫。ちゃんとパーティーには参加するよ」

それだけ言うと、また本へと視線を戻すサクに、サンはしょうがないなとため息を吐くと小さく笑った。

「それじゃあ、私も次のレッスンがあるから行くわね」

「うん。行ってらっしゃい」


サンが去ってから、サクはホッとするように肩の力を抜いた。

サクが前に言った通り、サンは良く笑うようになり、言動も明るくなった。本当の意味で皆に好かれるようになり、それを嬉しくは思う。

けれども、成長するサンの姿を見るとサクは胸が痛くなる。綺麗になっていく彼女を愛しく想いながら同時に怖くなる。

(大人になれば、僕はサンへの気持ちに上手く蓋をできると思ってた)

けれども、大人になればなるほどサクはサンが愛しくて堪らない。

他の誰かのモノではなく、自分だけのモノでいてほしい。そんな感情が沸き上がることに気が付いてから、サクはサンの側にいるのが怖くなった。

いつか自分の手で、一番大切なものを壊してしまうかも知れない。そう思うようになってから、サクはどこかよそよそしくなった。

(サンにとって、僕は兄でしかない)

片想いなら自分が我慢すればいいだけだ。

「………前世か」

前世に関する本。昔見つけた「記憶の本」というのを、サクは時々読み返す。

(そういえば、夢の中で過去を振り返るってやり方があったな)

夢の中で夢と自覚し、そこから過去へ下るように操作する方法。だがこの方法は一人でやってはいけない。

何故なら―。
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