ドS上司の意外な一面
 違うと否定しても、正仁さんには口で勝てる気がしない。視線を逸らして黙秘する私に、すごく嬉しそうな表情を浮かべた。

「さて前菜はこれくらいにして、本日のメイン」

 そう言ってしゃがみこみ、私のふくらはぎに手をやる。

「見事に伝線してますね。しかも両足とは――」

「えっ? ホントだ。どうしてだろう?」

 山田さんの会社から帰る最中、ぼーっとしていたからその時かなぁ。

「君らしいですね、まったく」

 言い終わらない内に細長い指をパンストに差し込んで、ビッと破いていく。

「ちょっ!? 何してるんですか?」

「見ての通り、破いてるんです。どうせ捨てるんでしょう? もう少しだけ足を開いて下さい」

 そして反対側も同じように破いていった。足の線に沿って破っていく、どこかいやらしい手つきにゾクゾクするしかない。

「ッ……。す、捨てますけど、そんな風に派手に破らなくても」

「俺は君の生足が好きなんです。この綺麗な足が――」

 言いながら太ももの内側を、下から上へゆっくりと唇が滑っていく。パンストを破く関係でタイトスカートは腰の位置まで捲り上げられ、とてもハズカシイ状態にされていた。

「やっ……」

 身をよじっても逃げられないので、正仁さんの頭を両手で押さえてしまった。

「ん? ここを責めて欲しいんですね」

「違いま、んんっ!?」

 腰骨から横下腹をペロッとされ、慌てて頭から両手を離す。

 そのとき資料室のドアノブが音を立てて、ガチャガチャと動き出した。その物音に驚いて、正仁さんと一緒に扉を見つめる。

 開ける気満々でいる外の人は鍵が閉まっているのが分かっているのに、相変わらず激しくドアノブを回し続けた。

「今の声……もしかして聞こえちゃった!?」

 真っ青になった私に対して正仁さんは余裕の表情のまま、意味深な笑みを浮かべて見上げる。

「今の君の声って、どんな感じでしたか?」

 飄々と言って先ほど責めていた左足の太ももを撫でながら、右足付け根にやわやわと唇を寄せてきた。

「ん゛……んっ……!」

 両手で口を押さえた私を上目遣いで見つめながら、さっきよりも際どい箇所を正仁さんの指先が入念に触れた。

『あ~もぅ開かねぇな、チクショウ』

 早く諦めて帰って……じゃないと――

 ハラハラドキドキしていることを知ってるクセに唇で下着を噛むと、片側だけ少しずり下げる。瞬間、吐息がお尻にかかって、それだけで体がビクッと大きく震えた。

 際どい箇所に触れて肝心な場所に一切触ってないことに、ひどく刹那さを感じてしまう。

 扉の向こう側に人がいるのが分かっているのに、どんどん正仁さんに弄んで欲しい気持ちと、社内でハズカシイことをしている自分の裏腹な気持ちがごっちゃになってもう――

「あっ、もぅ……うぅっ!」

 立っているのがやっとの私に、下着と肌の境界線を舌先を使って丁寧に舐めていく。それだけじゃなく感じる部分を狙って、ワザとちゅっとキスマークをつけていく。こんな刺激的なことをされ続けたら、下着の中は大洪水になっているワケで。

 暗がりなら視線をスルーすることができるのに、まだ夕方なので明るい。恥ずかしがって身をよじる私を、正仁さんはじっと見つめながら責め続けた。

 扉の向こう側から『クソッ』と言う声が聞こえるのと同時に、下着の中に指を差し込まれる。

「あっ……ダメ、こんな所で……やだっ」

 何とか頑張って拒否してみたけど、華麗にいつものごとくスルーされてしまった。敏感な部分に指先が触れてきて、円を描くようにゆっくりとマッサージされる。それだけじゃなく、細長い中指が私の中に――

「だって君のココが、俺の指を飲み込んでしまったから。何もしてないのに、簡単に入っていきましたよ」

「何もしてない、なんて。たくさんしてましたっ。足とかお尻とか感じるトコ、責めまくってたじゃ……んっ……ないですか」

「そこだけしか触ってないですよ? ホントに感じやすい足ですね、だから好きなんです」

 余裕な笑みの正仁さん。下着の中で怪しく動く指使いに翻弄されまくる私。二人の温度差が悔しい――何で私だけこんなに、淫らになってるんだろう。

「何て顔してるんです? 何が不満なんですか?」

「だっていつ……も、正仁さんは冷静沈着な、ん……だもんっ」

「バカですね君は。こんなことをして、冷静な男がいると思ってるんですか。指全体にイキそうな君を感じながら、俺自身をねじ込みたい衝動を必死に抑えなきゃならないんですよ」

 溢れまくる蜜を使い、淫らに音を立てながら律動する指使いにもう――

「んっ、我慢し…ないで挿れ……て、ください、っ……あぁんっ!」

「夜に君の顔を見ながら、その台詞が聞きたいですね。まったく――」

 諦めたように指を抜くと、立ち上がって私を抱き締める。正直、膝がガクガクして倒れる寸前だった。

「そんなに残念そうな顔をしないで下さい。メインディシュはとっておきなんですから、こんな所でしちゃ駄目でしょう?」

「だって……」

「今夜はどんな体位がお望みです、奥様?」

 抱き締められた正仁さんの胸から、すごく早い鼓動が聞こえた。ドキドキしてるのは、私だけじゃなかったんだね。

「正仁さんにお任せします。いろいろとご存知みたいですから」

「何なりと」

 どうしてこんなにポーカーフェイスが上手いんだろう、やっぱり悔しい。

「正仁さんのドS……」

 聞こえないように、呟いたつもりだったのに。

「ドSのSは、サービスのSなんです」

「なっ……!?」

「そんなに怒らないで下さい。ひとみが好きなんです。愛しい君だけにしかサービスしないんですから」

 そう言って、優しく唇を塞いで私の苦情を塞ぐ。

 いつか正仁さんをやり込めてやりたい――そんなことを思ってしまう瞬間だった。
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