ドS上司の意外な一面
嬉しハズカシ新婚生活編(正仁目線)
 けん坊の会社に向かうよう彼女に書類を託し、ついでに今川部長に渡す新婚旅行のお土産を持たせた。彼女の留守中、しっかりと自分の仕事に集中する。

 しばらくすると、内ポケットに入れてたスマホが震えた。急いで確認してみたら、けん坊からだった。

『さっきはひーちゃんに書類持って来てもらって、すっごく助かりました。まさやん有り難う、感謝』

  ここまでは、普通に読み流せたのだが――

『今川部長が不在だったから、奥さんが常駐してる会長室に、ひーちゃんを逝かせました。悪いなとは思ったけど、今川くんに案内を押し付けちゃった、多分大丈夫だと思う。以上』

「――けん坊お前、どんだけお人好しなんだ……」

 忙しい中なのに、わざわざメールしてくれたのは文面を見ると一目瞭然。

『ひーちゃんを逝かせました』という文章は、行かせましただよな。勿論あっちの、イかせましたじゃないだろう。

 そして問題の今川くんって例の合コンで見かけた、小野寺以上にチャラい男だった記憶がある。そんな男に、どうして俺の大事な奥さん任せるんだ。

 怒りに震える手でスマホを握りしめていると、誰かが傍にやって来た。

「忙しいところすみません。鎌田課長、この書類なんですけど」

 出来の悪い男性社員が、おずおずと話しかけてくる。俺はこれでもかというくらい、機嫌が悪いというのに――

「鎌田課長の奥さんに、この資料のまとめをお願いしてたんですけど、不在で進められなくて」

「彼女がいなくても、自分でまとめればいいじゃないですか。自分ならこれくらいの書類、三十分で完成させますが?」

「三十分なんてそんな……。俺には無理っす」

「人に頼ってばかりで、自分からやろうとしないのが駄目なんです。ちなみに資料室は十七時に鍵がかかりますから、それまでに仕上げないと大変なことになりますよ」

 彼をメガネ越しに下から睨み上げてやった。途端にスッと青くなる顔色。慌てて自分の席に戻って、書類作りを始める様子をぼんやりと眺める。

 ひとみが会社に戻って来るのは、何時頃になるだろう? 十七時までには戻るかな。おつかいで疲れたであろう彼女の綺麗な足を、この手で労ってあげましょうか。

 無論、今川くんの話はきちんと聞かなければですけど――何もされていないことを祈ります。
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