ドS上司の意外な一面
新婚生活編 不倫疑惑!?
「おかえり、賢一。早かったのね」

 現在出産を控えた奥さんは、実家で過ごしています。なので電話にて挨拶。

「ただいま叶。一緒にハシゴ酒したらきっと、早く帰宅できないと思ってさ。それにいつ生まれるかと思ったら、どうしても気になるしね」

「んもぅ、予定日までまだあるんだから、すぐには生まれないわよ。久しぶりに、楽しんできたら良かったのに。まさやん君と呑むの、久しぶりだったんでしょ?」

「そうだね。仕事忙しくてなかなか一緒に呑む暇なかったから、今回は久しぶりだった。今日はまさやんだけじゃなく、今川部長と3人で呑んだんだ。凄く盛り上がって、話が弾んで楽しかったよ……」

 珍しく俺を気遣ってくれる、どうしたんだろ? 

 今回の飲み会は俺自身あまりお酒が強くないので、ちょっとだけ呑んで、まさやんや今川部長の呑みっぷりを堪能してました。

「楽しかったという割には、語尾が下がってるのね」

「うん。まさやんのピッチがいつもより早いのを面白がって、次々と呑ませてしまったんだ」

 今まで一緒に呑んでも顔色や態度が変わることなく(そりゃいつもより、口煩くなるけどね)それなりの酒量をたしなんでいた記憶があるんだけど、今夜のまさやんは何だか全てがスゴかった。楽しかったのには、違いないと思うのだけれど――

「まさやん君、どうなっちゃったの?」

 興味津々で叶が聞いてくる。宿敵の情報が知りたくて、堪らないと言わんばかりだ。

「スーパーハイテンションな感じかなぁ。ライブの打ち上げでも、あそこまでテンションは上がることがなかったのに」

「イマイチ想像できないんだけど。どんな感じで、ハイテンションなのよ」

 不満そうな口振りされても困ってしまう。だって、表現のしようがないんだから。

「とりあえず今川部長が、次のお店に連れて行ってしまうくらい気に入っちゃう感じかな」

「へぇ、どこのお店に行ったのかしらね? 賢一も誘われたんでしょ」

「即行、俺は断ったよ。そんな趣味ないし!」

 奥さんからの立て続けの質問に、慌てて答えるしかない。

「どんな趣味のお店なのかしらぁ? 今川部長がわざわざ連れて行ってくれるようなトコなんだから、きっと綺麗なお姉さまがいそうよね?」

「あの……叶」

「即行断ったということは、一度そのお店に行ったと考えていいのかしら?」

 ああ、聡い奥さんをもつと大変です。

「行きました、はい行きました」

「まったく油断も隙もないわね。やっぱり出産後、すぐにでも戻ろうかしら」

「大丈夫だから。もういかがわしいお店には行かないから、ゆっくりしてきなよ。産後は、体を大事にしないといけないんだし」

「へぇ、いかがわしいお店だったのね」

 ――ああ、どんどん墓穴を掘ってる。

「このことは、ひとみちゃんにリークしておくわよ。アヤシイお店の件と、スーパーハイテンションのこと。帰宅して、びっくりするよりはマシでしょ」

「そうだね。あの状態はきっと度肝を抜くと思うから、事前に知ってもらった方がいいかも」

 きっと、どうしていいか分からないだろうな。俺も実際、かなりもて余したくらいなんだから。

「さて賢一くん、君には会ってからじっくりと事情聴取するから、覚悟しておきなさいよ」

「ほぼ自白してる状態なのに、まだやるんだ」

「とか何とか言って、寂しいくせに」

「叶?」

「電話での最初の声、何だか寂しいそうだったから」

 それはきっとまさやんや今川部長が、楽しげに奥さんの話をしていたせいかも。羨ましく聞いていたのは確かだったけれど、それが電話から伝わってしまうなんて。

(だから俺を気遣ってくれていたんだ――)

「有り難う叶、君こそ体調はどうなの?」

「実家にいるお陰で、快適に過ごしてるから大丈夫よ。でも賢一がいないのは、やっぱり寂しいわね。苛める相手がいないのは、やっぱりつまらないわ」

 もう十二分に、苛められてますが。

「でも遅くに電話ゴメン。お腹の赤ちゃんにも悪いよね」

「ううん、賢一の声が聞けて良かった。おやすみ」

「おやすみ叶」

 叶から電話を切るの待ってから、自分もオフにする。

「それにしても……」

 まさやん、ちゃんと家まで帰れるんだろうか。今川部長もかなり呑んでたからなぁ。次のお店で間違いなく、もっと弾けているに違いない。
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