ドS上司の意外な一面
「何でしょう?」

「いつも冷静沈着な正仁さんが、どうして自分を忘れるくらいにお酒を呑んだのかなって。楽しかったのは分かるんですけど」

「それは……けん坊や今川部長が、俺のことを口撃するものだから。新婚生活についていろいろと訊ねられて、間が持たなくなってしまい、つい呑んでばかりいました」

 現在、自分たちは奥さんに虐げられている状態。けん坊は地方に買物へ、今川部長は子供の世話等々で、普通の夫婦生活を送ってる俺に、いろんなツッコミをしてくれたのだ。新婚だから尚更――

「普通の夫婦生活って、朝からこういうのスルんですか?」

「しますよ。だって君が望んだことでしょう? 夫として妻の希望を叶えてあげるのは、義務だと考えていますがね」

 俺が満面の笑みで微笑むと、あからさまに困惑の表情を浮かべる。

「別に望んでないですもんっ」

「じゃあ妻として夫の希望叶えて下さい。今すぐ、君が欲しいんです」

 ぎゅっと抱き締めると観念したのか、俺の体に腕を絡めてきた。

「しょうがないですね、もぅ」

 そんな口振りとはウラハラな、君の体を堪能する。柔らかくて温かい君のぬくもりを感じるだけで、もう手加減できません。

「優しいのと激しいの、どっちがいいですか?」

 サービス精神旺盛な俺は、とりあえず聞いてみた。どちらがイイか、答えは分かっているのに。

「正仁さんってば、わざわざそんなことを聞いてどうするんです。私の野望は」

「野望って、希望でしょう?」

 これだから読めない、君から目が離せない。苦笑いする俺を睨む顔も可愛い。

「ああスミマセン。君の場合、希望じゃなく熱望ですね。要所要所優しくしながら、噛みつくように激しく――」

 耳元で囁いてから、首筋に唇を落とした。

「二日酔い、君のお陰で余計酷くなりそうです」

「そんなことを言われても」

「ひとみに酔いっぱなしなんですから、責任とって下さいね」

 君が着ているシャツのボタンを外していく。結局その日自宅にてまったり過ごし、リフレッシュした俺であった。

 後日、今川部長から連絡があった。例の動画を奥さんに見せてやってほしいと。ワイシャツに付いた口紅の痕が、どうやら波乱を巻き起こしたらしい。しかし動画は俺の手によって、サクっとその日の内に削除したので誤解を解くのに、更に苦労した今川部長であった。
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