龍使いの歌姫 ~卵の章~
「姉さん!クックレオ!」

「!!」

不意に悲鳴のような声が上がり、フードの男達は振り返る。

「レイ……ン?」

「姉さん!姉さん!」

レインはティアナへと走り寄る。だが、フードの男がレインを受け止めた。

「離して!姉さんとクックレオを返してよ!!姉さん!クックレオ!!」

ティアナへと手を伸ばすと、フードの男はティアナを振り返る。

「もしや、この子が村人の言っていた『ディーファ(赤い悪魔)』ですか?」

ディーファは忌み子の別の呼び方で、古い言葉だ。だが、あまりに差別としては酷い言葉のため、最近では使われていなかった。

「この子も、貴女と死にたいそうですよ?」

フードの男はレインを持ち上げる。

「離して!離してよ!!姉さんとクックレオを返しておじさん!」

「おじ―僕はまだ二十八ですが?!」

三十路前ならおじさんではないという男の言葉などどうでもいいレインは、ティアナの所へ行こうともがく。

男の手からさえ逃れれば、持っているサバイバルナイフで縄を切れる。だが、男はレインを一向に離さない。

「姉さん!クックレオー!」

レインの瞳には涙が溜まっており、顔や体も良く見たら泥だらけだ。

きっと途中で転んだのだろう。その様子がみてとれ、ティアナは胸が痛んだ。

(……置き手紙を置いたのに、無駄になっちゃったわね)

レインの布団の上に、ティアナは手紙を残していた。

自分は暫く遠くへいくという手紙を。

「ううー!はむっ!」

「ぐっ!」

男の手に噛みつき、腕の拘束が緩んだのを見計らって、レインは男の腹部を蹴り飛ばして地面へと転がった。

そして、這いずるようにティアナの元へと走るが、他のフードの数名がそれを許すこと無く、レインの前に立ち塞がる。

「どいて!どかないと……」

レインはポシェットからサバイバルナイフを取り出した。人を傷つけてはいけないとティアナに教わり、レイン自身も傷付ける気はないが、退いてもらうためにこれしかないと思ったのだ。

(………もう……十分よ。レイン)

「姉さん。クックレオ。今助けるからね!」

レインが走り出す。するとその時―。

『駄目よ……レイン』

頭の中に声が響いた。

「?……今の」

間違えようのない、大好きな声。レインはティアナへと顔を向ける。

ティアナは、ただ優しく微笑んでレインを見ていた。

『レイン。私はもう駄目』

もう一度頭の中に声が響く。

ティアナの足はもう焼けてしまっていた。それに、クックレオももう焼け死んでしまった。だが、ティアナは痛みに悲鳴をあげることはしなかった。

『だから、貴女は逃げて。私の分まで生き延びて』
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