龍使いの歌姫 ~卵の章~
何とか川を見つけ、レインは食事を取るように勢い良く飲み込む。

「はぁ……はぁ…………ふぅ」

喉が潤い、側にある草の上へと金色のものをお腹に乗せながら寝転んだ。

見上げた夜空には、大小様々な星が煌めいている。

(……綺麗……)

あんなことがあっても、星は輝き続ける。星へと手を伸ばしても、レインの手に掴めるものは無く、また少し悲しくなった。

まるで、自分だけがこの世界に取り残されたような気分だ。

けれども、腕の中には温もりがある。その温もりが離れていかないよう抱き締める力を強くすると、不意に足音が聞こえた。

「?」

村人だろうかと思い、後ろを振り返る。

しかし、そこにいたのは見知らぬ男だ。その髪はクックレオと同じくらい黒い、そして片目が隠れている。

唯一見えている瞳は、真っ青だった。

(……何か、怖い)

レインを見下ろす男の瞳に、得たいの知れない恐怖が沸き上がる。

急いで立ち上がると、男を見上げた。

「……誰……ですか?」

万が一に備えて、レインは一歩後ろへと下がる。

「……それは、龍の卵だな」

レインの腕の中にある金色のものを見ながら、男は言った。

「りゅうの……たまご?」

オウム返しに尋ねると、男はおもむろに背中の大剣を引き抜き、レインに向けた。

「っ!!」

「それを、よこせ」

ジリッと草を踏み鳴らし、男はレインへと一歩近付く。対するレインは、金色の卵を後ろへ隠し、男を睨んだ。

本当は、足が震えて仕方なかったが、それを堪えるように足に力を込める。

「駄目!何をする気なの?」

「それを、壊すんだ」

「!……まだ生まれてすらいないのに?何も悪いことしてないのに?」

龍の卵を見たことが無かったレインは、これが龍の卵だとは思っていなかった。

ゴツゴツとしていて、変わった形の石かと思っていたのだが、目の前の男が「龍の卵」と呼んだ。

その瞬間、レインはこの卵を守ることを選んだ。

卵であれ、命ある生き物なのだ。それを簡単に摘み取ってはいけないとティアナから教わっていた。

それに、何故だか守らなければいけない気がしたのだ。

「それは、この世にあってはならない。子供に言っても無駄だろうがな……」

また男はレインへと距離を詰める。

(逃げなきゃ!!)

レインは決心すると、卵を前に抱え直し、身を翻して川へと飛び込んだ。

「!待て!」

男も川へと飛び込もうとするが、川の深さに足を止めた。

この川は普通より流れが速く深めだ。

(……下流に向かった方が早い)

男は川の流れを追いかけるように走っていった。

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