クールな上司は確信犯

悔しいけど、好き

いつもの本屋カフェでデート中、有希は和泉に説教をする。

「和泉さん、何で付き合ってることバラすんですか!もうっ!もうっ!」

ぷりぷり怒ると、全く悪びれることもなく、むしろ意味がわからないといった顔で見てくる。

「人事部に引き留められなかったんだ。だったらバレても構わないだろう?」

確かに、人事部の和泉の下で働くため、秘密にしておこうと言っていた。
総務部へ戻った今、その約束は無効だ。

「それに、宣言しておいた方が有希に悪い虫が付かなくてすむ。」

コーヒーを飲みながら優しく微笑む。
まともに見ると素敵すぎて、心が浄化されてしまってそれ以上何も言えなくなってしまうので、有希はプイと手元のココアに視線を落とす。

「悪い虫なんて付きませんよ。私は和泉さんしか見えないんだから。」
「すぐそういう可愛いことを言う。だから心配なんだ。ずっと俺の腕の中に留めておきたい。」

和泉はそう言うと、有希の肩をぐっと引き寄せた。
和泉の控え目な香水の香りがふわりと漂う。
魔法にかけられたみたいに和泉に吸い寄せられてしまうのを、ほんの少しの理性が待ったをかけて、和泉の胸を押して剥がれる。

まったく、油断も隙もあったもんじゃない。
公共の場だっての。

不満そうな和泉に、有希はまたぷりぷり怒る。

「私の方こそ心配です。最近和泉さん、表情が柔らかくなったって、人気なんですからね。」
「だったらなおのこと、宣言しておいてよかったな。俺は有希のものだと。」
「まあ、確かにそうかもですけど。」

何か上手く言いくるめられた気がして悔しい。
のに、嬉しい。
照れ隠しにココアを飲んだら、頭をポンポンと撫でられた。
優しい顔で微笑む和泉に視線が吸い寄せられていく。

と思ったら、唇を重ねていた。
甘くて甘くて胸がきゅんとなって。

…って、公共の場!

「和泉さんっ!」

真っ赤な顔で睨む有希に、和泉は「わかったわかった」と楽しそうに笑った。
その笑顔が素敵すぎて、これ以上怒ることができない。
なにより、嬉しい方が勝ってしまうから。

今日もまた、和泉さんに翻弄されています。
悔しいけど、好き。
大好き。


【END】
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