誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

(だって私、閑さんのこと……)

 好きだからこの町に残りたかった。
 一緒にいたいから、ルームシェアを受け入れた。
 思い出でもいいと、彼に抱かれた――。

 そんな、節目節目で、なにかを決断しても、それを閑に告げたことはないのだから。卑怯だとしたら自分の方だろう。

 だが閑は首を横に振る。

「俺、小春ちゃんに内緒にしていたことがあって。それを話したいんだ」
「は……はい」

 小春は緊張しながら、閑の発言の続きを待つ。

「順序だてて説明する。途中、わからないことがあったら遠慮なく聞いてほしい」

 閑はそう言って、テーブルの上のお茶で唇を濡らした後、まっすぐに小春を見詰めた。

「俺、小さい時から、家族の中で、自分だけちょっと違うって思ってた。五人兄弟で、髪とか目が茶色いのは俺だけだし、くせっ毛なのも俺だけだった。ひとりだけ女みたいな名前だし……。なんで?って思ってた。両親は、『死んだじいさんの隔世遺伝だ』『男ばかり四人もいたから、五番目は女の子がよくて、女の名前を用意してた』って言うから、信じてたんだけど……。よくよく考えたら、俺の両親は、医者で、命はすべからく平等だっていう人たちで。間違っても、娘が欲しかったなんて口にするタイプじゃないんだよな。だから中学一年生の時に、思い切って戸籍を調べたんだ。俺の欄には、続柄が五男って書いてあった。だけど……よく見たら、“民法817条の2の裁判裁定”という記載に気が付いた。民法ってなんだろうって、思ったんだ。だからそのまま学校の図書館で調べて、特別養子縁組のことを知った」

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