誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

「んなわけあるかー。昔、大将と一緒に徳島の店に何度か来てただろ。顔を合わせてたのはその時だけだ」
「あ、そっか。だってお兄ちゃんはずっと徳島で、その後は大阪だもんね……でもちょっと、お似合いといえばお似合いだったかも」

 人妻になってしまったが、強気な美人の希美と、年下だが長身ワイルドな虎太郎は、並べるだけで絵になる。雰囲気もよく似ているのだ。

 小春がふふふと笑うと、虎太郎は肩をすくめて「向こうからお断りされるさ」と言って、お茶を飲む。

「そうかぁ~? 俺の見立てだとそうじゃなかったんだがな。まぁ、今となっては過ぎたことさ」

 大将はそう言って、カウンターの上に小鉢を並べる。

 ぶり大根、鶏肉と厚揚げのみぞれ煮。酢の物など、大将の手作りのおかずたちだ。
 虎太郎が来ると聞いて、彼の好物を作ってくれた。それを見て、虎太郎が目を輝かせる。大将には感謝しかない。

「うわー、うまそう!」
「じゃ、あとは小春ちゃん、頼んだぜ。俺は近所のじじいたちと碁打ちだからな!」

 大将はビシッと碁を打つ真似をしながら、エプロンを外して店を出て行く。

「はーい。行ってらっしゃい、気を付けて」

 小春は大将の背中を見送り、戸を閉めて冷蔵庫から瓶ビールを取り出した。

< 133 / 310 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop