誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
番外編・他愛もない日々の先に

 年が明けて季節は春――三月末のこと。

「今度の土曜日なんだけど、お花見パーティーに行かない?」

 閑の提案に、朝食後のコーヒーをマグカップに注いでいた小春は、首をかしげた。

「お花見……パーティー?」

 お花見はわかるが、そこにパーティーとつくのがよくわからない。

「どういうものなんですか?」
「じつは毎年、俺の友達が主催するパーティーがあってさ」

 閑はコーヒーを、ふーふーと冷ましながらゆっくり口をつける。

「はい」
「自宅の庭に桜が咲いてるから、それを見ながら飯を食ったり、酒を飲んだりするっていうそれだけなんだけど。毎年恒例になってるから、どうかなと思って」
「庭に桜……」

 自宅に桜を植えるのは、相当庭が広くないとだめだし、なにより虫が多い。手入れが大変だと聞く。

「自宅で見られるなんて、贅沢ですね」

 きっと素敵な時間が過ごせるだろう。
 小春が花散る庭を想像していると、

「なにより人込みがないのがいい」

 閑が真面目くさった顔でうなずく。

 閑は人込みが嫌いなのだ。

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