誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「槇先生にも、お礼を言わないと……っ」
小春はハンカチで涙をおさえながら、唇をかみしめる。
「で、とりあえず二週間の入院ってことになったけど……確か大将の娘さんって、海外で働いてるんだっけ」
「はい。キミお姉ちゃん……結婚して、ロンドンで働いてて……」
小春の八つ年上のキミお姉ちゃんこと、希美(のぞみ)は、大将のひとり娘だ。小春にとって姉のような存在でもある。当然連絡するべきだろう。
「ロンドンか。時差は向こうが九時間前だから……」
閑は腕時計を見て、「遅い時間ではあるけど、連絡して悪いってことはないだろう。こういう状況だし」と言い、不安で唇をかみしめる小春の肩に、手を置いた。
「はい、大丈夫です。連絡先、スマホに入ってますから」
希美とは月に一度ほど、Skypeで連絡を取り、近況を報告している。
小春は震える手でエプロンからスマホを取り出したが、緊張のせいかスマホが手からつるりと滑り落ち、床に落ちる。
「あっ……」
「――小春ちゃん」
慌ててスマホを拾い上げたが、またポロリと涙がこぼれた。
丸い涙が、液晶にぽつぽつと落ちる。