明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
女学校に通うお嬢さまたちは、そうなんだろうか。


「そんなに喜んでもらえると俺もうれしい。それに、短い間だったが楽しかったよ。さて、時間がないので失礼する。出しなさい」


車夫に声をかけた彼は、そのまま走り去ってしまった。


「あっ、名前もお聞きしなかったわ……」


懐中時計を見つめ、ハッとする。

もしかしてああやって叱って、私にこの時計を受け取らざるを得ないようにしたのかしら。

しかも、なんなんだろう。
心臓がバクバクと音を立てて暴れ回り、自分ではどうすることもできない。

あの優しい笑みが頭にこびりついて消えてくれないのだ。


私は初めての感覚に首をひねりつつ、試しに時計の蓋を開けて見ると、中になにやら文字が刻まれていた。

しかし英字なのでなんと読むのかわからない。


「あや、遅いわよ」


そのとき、神社の境内から初子さんの急かす声が聞こえてきた。


「ごめんなさい」


私はとっさにその時計を胸元に隠し、初子さんのもとへと走った。
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