明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
そのとき、箪笥に隠してある懐中時計を取り出して眺めた。

今朝も忘れることなくねじを巻いたそれは、カチカチと時を刻み続けている。
私と行基さんの幸せな時を。


「生きていてくださって、よかった……」


初子さんは今頃、周防さんと幸せに暮らしているかもしれない。

それでも生きてそういう道を選んでほしかった。

死ぬ気になれば、駆け落ちでもなんでもできたはずなのだから。


『残された者は寂しくて仕方ないのよ』


開いている障子の向こうに見える勿忘草色の空に向かって、心の中でつぶやいた。


「そういえば……」


行基さんが目覚めたとき、この時計を見られなかっただろうか。
枕元に置いてあったので、慌てて着物の袖に隠したのだけど。


時計について触れないということは、気づいていないのかしら? 

それとも、いくつも持っていると言っていたので、この時計の存在自体を忘れてる?

最近、行基さんは腕巻時計を愛用していて、他の懐中時計がどこにあるのかも知らない。
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