明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「お父さまが、家がなくなるかもしれないと言っていたのですが、本当でしょうか?」


学校を休んでいる孝義は、朝食のあと炊事場の私に駆け寄ってきて、不安を漏らす。

かわいそうに。
朝食のとき、父がぶつくさ言っていたことを気にしているんだわ。

孝義だって大好きだった初子さんを失い傷ついているのに、これ以上の負担はいらない。


「心配はいらないわ。いざとなれば私が孝義の面倒くらいみます」


そんなあてはまったくなかった。

初子さんの着物やかんざしを売るだけでは、彼が帝国大学に行くためのお金など捻出できるはずもない。

今の生活の水準を保つなんて、とても無理な話だ。

かといって、私まで弱気になっては、孝義はますます不安になってしまう。
必死に笑顔を作った。


そんなとき、津田家の両親と婚約者だった行基さんが突然訪ねてきた。

もちろん、初子さんが亡くなったことは知らせてある。

ただ、津田家には事故で亡くなったと報告してあり、心中ということは伏せられていた。
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