明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「止めろ」


すると、それに気づいた人力車の客が車夫に声をかけ止めさせている。

てっきりそのまま走り去ってしまうとばかり思った私は、拍子抜けしていた。


「すまなかったね。大丈夫かい?」


降りてきてハンカチーフを差し出したのは、上質な三つ揃えを着こんだ紳士だった。

二重で切れ長の存在感のある瞳。
そして長めの前髪の間からチラチラと覗く凛々しい眉。
スッと筋の通った鼻に、薄い唇。

西洋の匂いが漂うその人は、私がそのハンカチーフを受け取ることをためらっていることに気づき、さっと顔にかかっていた水を拭き始める。


「あっ、自分で……」


私は慌てて紳士を制し、ハンカチーフを受け取った。

こんな間近で男性の顔を見つめたことがなく固まっていたというのに、ハンカチーフ越しであれど、触れられたとなれば焦らないわけにはいかない。

私はそのハンカチーフで、まずは着物を拭き始めた。

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