明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「まだ顔が濡れているよ」
「ですが、着物のほうが大切なので」


借りている着物が自分には似つかわしくない高級品だと知っているので、至極当然の返答をしたつもりだった。

しかし紳士は、「ははははっ」と声を上げて笑い出す。


「どうかされました?」
「きみのほうが大切だよ。着物は買えるだろう?」


そうつぶやいた彼は、私の手からハンカチーフを奪い返し、また顔を拭き始めた。

『きみのほうが大切』と私に言ったの?

思いがけない言葉に呆然としてしまい、なすがままだ。


「これでよし。着物も洗濯をすれば大丈夫だと思うが……一応新しいものが買えるように」


彼は内ポケットから紙幣を取り出して、私に握らせる。


「えっ……いただけません!」
「どうしてだ? 俺がきみの着物を汚してしまったんだから、当然だ」


そんなことを言っても、手には十圓券が二枚握らされている。

十圓なんて大きな紙幣を手にしたことがない私は、口をあんぐり開けてあたふたしてしまう。
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